The World Commentary No.89

45年ぶりの韓国非常戒厳令

「狂ったんだ」「狂ったのでなければ、こんな事できない」。尹(ユン)錫(ソ)悦(ギョル)大統領が2024年12月3日午後11時に宣布した戒厳令に対する韓国メディアの反応である。戒厳令の宣布は45年ぶりのことであった。

 「帝王的大統領制」と言われる韓国の大統領は、強大な権力を有する。そのなかでも、大韓民国憲法第77条には、戦時、事変またはこれに準ずる国家非常事態において兵力によって公共秩序を維持することがある場合、大統領が非常戒厳を宣布できることが規定されている。今回の戒厳令宣布は、この要件を明らかに満たしていない。 

非常戒厳が大統領によって宣布されたことを受けて、戒厳軍司令官が戒厳令布告令を発表した。市民が布告令に反する行動を行った場合、令状なしに逮捕や処罰される。全6条から構成される布告令には、一切の政治活動の禁止、そして言論出版活動を戒厳軍による統制下に敷くことが含まれた。この布告令は、過去の独裁政権を彷彿させるものであった。

憲法第77条は、大統領による非常戒厳権と同時に、国会在籍議員の過半数(150名)が戒厳令を解除することを求めた場合、大統領は戒厳を解除しなければならないと規定し、国会へ戒厳解除権を付与している。従って、国会が解除要求を決議することを阻止するため、707部隊が投入された。707部隊は、対テロ任務や要人暗殺を担う韓国軍隊の最先鋭部隊である。707部隊を乗せたヘリコプター12機が、国会議事堂内の敷地に着陸した。707部隊は、窓を割って国会議堂内に侵入し、国会議員秘書官や補佐官が、部隊を阻止するために立ち向かった。そして、解除要求を決議するための国会議員の動きは素早かった。戒厳解除決議を行うために、禹元植(ウウォンシク)国会議長は、国会を包囲する警察を避けながら、塀を乗り越えた。戒厳令宣布から2時間後の午前1時、国会議員190名が戒厳解除要求決議に賛成した。

戒厳令宣布と解除から1週間経ち、徐々に全貌が明らかになってきている。大統領の政敵である李在(イジェ)明(ミョン)「共に民主党」代表、禹元植国会議長、韓(ハン)東勲(ドンフン)「国民の力」代表らを逮捕し、ソウル近隣の掩体壕(敵の攻撃から守るための軍の施設)に拘束する計画であったことが明らかになった。非常戒厳軍の指揮官の一人である陸軍特殊戦司令官は、国会国防委員会において、尹錫悦大統領が「早く[国会の]門を壊して、中にいる議員を引きずりだせ」と命令したと証言した。

わずか6時間の出来事であったが、戒厳令の宣布は韓国国民に深い衝撃を与えた。筆者も、未だ、その衝撃のなかにいる。