台湾では、1980年代後半から民主化が始まり、1996年には最初の総統直接選挙が実施された。ここから民主化は軌道に乗り、国民党と民進党との間で3回の政権交代をへて、2016年には女性初の総統として蔡英文氏が選出された。
2020年1月11日、総統選挙および立法委員(国会議員に相当、定数113)選挙が同時に行われた。結果は、与党民進党の現職、蔡英文総統が野党国民党の韓国瑜氏に圧勝して再選を果たし、立法委員選挙においても、民進党が61議席を獲得して、過半数(57議席)を維持した。蔡氏の政治基盤は安定したものとなった。
一方、中国は即日、政府の台湾事務弁公室から「一つの中国の原則(中国大陸と台湾は一つの国に属する)を堅持する」とのコメントを発表し、中台の統一方針に揺るぎのないことを示した。
この半年ほど、蔡氏優勢の選挙報道が内外のメディアから喧伝され、順当な結果ともいえるが、蔡氏個人にとっては決して楽な選挙ではなかった。2018年秋に行われた統一地方選挙では、親中姿勢をとり経済の振興を前面に掲げた国民党の前に歴史的惨敗を喫していたからである。
近年、台湾の動向分析には困難さが増している。政治情勢が一年、半年単位で大きく揺れ動くからだ。おそらく、既成の二大政党に対して不信感をもつ中間派、すなわち、台湾の自立と経済的繁栄の双方を求め、独立や統一よりも現状維持を志向する人々が増えたことに関係している。
では、蔡氏が再選された背景には何があった
のだろうか。まず、2019年1月、中国の習近平国家主席が演説で「一国二制度の台湾版」を唱え、武力行使の可能性に言及しつつ統一への強い意欲をみせたこと、次に、同年6月以降に発生した香港での大規模な民主化要求デモに対して、香港政府と中国政府が強硬に対応したことである。この二つは強烈なインパクトを台湾世論に与えた。蔡氏は中国への批判的姿勢を貫き、若者を中心に劇的な人気回復を果たした。一方の韓氏は、メディアから受けた香港デモに関する質問に、「よく分からない」と対照的な返答をした。この台湾のテレビ・ニュース動画に、筆者は愕然とした。つまり、敗者側の国民党の現状にも、蔡氏再選の背景を見ることができる。派閥対立、候補者人選の不備、無党派層や若者からの不人気、拙速な対中接近など、党再生の課題は山積する。
蔡総統と民進党は当面の危機を乗り越えたが、中国への経済依存、中台の軍事力の非対称性に大きな変化はなく、移ろいやすい台湾世論を睨みながらの難しい政権の舵取りが求められる。