The World Commentary No.13

ASEANのインド太平洋構想

 2019年6月にタイ・バンコクで開催されたASEAN首脳会議の場で、ASEANは「インド太平洋に関するASEANの見解(ASEAN Outlook on the Indo-Pacific: AOIP)」を採択した。AOIPとは、そしてその狙いは何だろうか。

 AOIPのIP(インド太平洋)は、太平洋からインド洋まで広大な海域を含む地域概念であり、近年、その地政学・地経学的戦略的重要性が注目されている。2016年8月にケニア・ナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議で安倍晋三総理は「自由で開かれた」インド太平洋の考え方を提唱、翌年11月にはドナルド・トランプ米大統領がベトナム・ダナンで「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略を発表した。日米がFOIPを推進するなか、遅まきながらASEANが打ち出したインド太平洋観がAOIPである。

 ASEANがAOIPを採択した理由は、「ドーナツ化の回避」の一言に尽きる。ARFやEASなどのアジア太平洋に現存する主要な地域制度は、ASEANを中心に据えている。議題設定、会議進行、成果文書立案を主導するASEANには、地域制度のリーダー役との自負がある。しかし、中国はアジアを欧州やアフリカに結ぶ「一帯一路」構想を推進する一方、中国を警戒する日米はFOIPを掲げ、豪印との連携を強めている。大国主導の構想が進展し、特に日米豪印の連携の輪が強まれば、そのほぼ中央に位置するASEANは埋没しかねない(図参照)。

このような状況下において採択された5ページの公式文書は、インド太平洋で中心的役割を果たすのはASEANであると訴えている。そして同地域を対立ではなく、対話と協調の場とするためには、(大国主導により)新たなメカニズムを創設するのではなく、既存のASEAN主導のそれを強化することであると説く。すなわち、大国間主導権争いを牽制し、インド太平洋においてもリーダーシップをとるのはASEANであると大国に釘を刺すこと、これがAOIPの狙いである。

 だが、これらはASEANが以前から機会があるごとに強調してきた内容であって、AOIPには新たに注目すべき要素は見当たらない。より大きな問題は、具体策が欠けている点である。中心的役割を果たすうえでASEANは何を行うのか、既存の地域制度をどのように強化するのか、何ら述べられていない。ASEANのドーナツ化を防ぐには、その穴を埋めるために自ら行動しなければならない。AOIP採択後に何をするのか、ASEANは問われている。