去る3月に「2人の怒る老人の対決」(No.76)と題して筆者が説明したバイデン対トランプのアメリカ大統領選挙は、エネルギッシュな対決へ急変した。7月中旬に共和党候補トランプ前大統領の暗殺未遂事件があり、同月末にバイデン大統領が再選を諦めハリス副大統領にバトンを渡した。
暗殺未遂直後の共和党大会で、トランプ候補は「全能神の御加護があったからこそこの場に私がいる」と奇跡を売りに聴衆を熱狂させた。一方ハリス候補は、ジョージア州の集会でカリフォルニア州検事として虐待者、詐欺師を起訴した経歴を強調し「私はドナルド・トランプ・タイプの人は熟知している」と支持者を熱狂させた。2人の老人の泥試合だった大統領選に「興醒め(apathy)」していたアメリカ国民は新たな政治のエネルギーに感化されたようだ。
世論調査結果も、ハリス候補の登場で、トランプ候補のこれまでの優勢が劣勢へと変化している。8月11-13日の全国有権者調査(エマーソン大学による)ではハリス候補が5ポイント優勢だ。この結果に焦るトランプ候補はハリス候補の人種と女性であることを題材に挑発を繰り返すが、これまでの世論調査結果には響いていない。ただ、大統領選では全国得票数ではなく各州の代議員数で争うため、両候補が接戦州の代議員を獲得できるかが鍵となる。
そこで両候補は、副大統領候補を両者が接戦する中西部から指名した。トランプ候補はバンス上院議員(オハイオ州選出)を指名し、ハリス候補はワルツ・ミネソタ州知事を指名し、中西部各州にアピールする人選となった。これまで副大統領候補の影響は大きくないと評する向きもあるが、今回の指名を見ると両候補が誰を副大統領に指名するか強く意識していることがわかる。
大統領選は代議員数の僅差を争う戦いとなるだろうが、結果を左右する要素は、(1)中西部州のミシガン(代議員数16)、ペンシルベニア(20)、ウイスコンシン(10)、そして南部のジョージア(16)がどちらの候補に転ぶか、(2)無所属で立候補するロバート・ケネディ・ジュニアがどちらの票を奪うか、(3)どちらの候補が「興醒め」していた40歳以下の若年層を実際に投票に行かせるか、だろう。
トランプ候補はMAGA(Make America Great Again)をスローガンに戦うが、ハリス候補はFreedomをスローガンに戦う。今のところ具体的な政策論争は起こらずスローガンのぶつかり合いだ。アメリカがくしゃみをすれば日本も風邪をひく、と言われる超大国のリーダーを決める大統領選だけに、目が離せない。