1995年にアメリカでビルマ語を学んでいた私のクラスメイトは民間航空会社の社長だった。この社長がビルマ語を学ぶ理由は、当時軍政トップから引退したネ・ウィンをドイツでの療養に移送する仕事をしているからだが支払いが「gold(金)」なので困っている、とのことだった。軍政の現実を垣間見た経験だった。
ビルマ(1989年にミャンマー連邦共和国に国名変更)は、人口の6割を占めるビルマ族と周辺山岳地帯の少数民族との間で紛争を繰り返す未統一の国家だ。建国の父アウン・サン(スーチー氏は娘)も国家統一を果たせないまま政敵に暗殺された。独立後の議会は少数民族との内戦と経済停滞で弱体化し、1962年にネ・ウィン国軍司令官によるクーデターにより、軍政が始まった。国軍は唯一の「国家の守護者」となったのである。ネ・ウィン軍政に反対する8888蜂起(1988年8月8日の反政府蜂起)は国民に広範に支持されたが、国軍は無差別発砲で激しく国民を弾圧し、一方で総選挙を約束した。その約束の1990年総選挙で圧勝したのが、スーチー氏率いるNLD(国民民主連合)だった。しかし、国軍はNLDの勝利を認めず、軍政を継続した。
総選挙で勝てない国軍は、軍政下の2008年に新憲法を制定し、国軍に4分の1の国会議席を配分し、国防・内務・国境管理の各大臣を国軍指名にするなどし、国軍は立法府と行政府に浸透していった。さらに、国軍は経済開放を進め外資を導入するが国軍関連会社との合弁が増加
し、軍人は市場にも浸透していった。
しかし、国民の国軍に対する不信感は、スーチー氏への更なる支持として現れた。2012年議会補欠選挙でNLDは圧勝し、この頃から国際社会はスーチー氏を公に後押しするようになった。スーチー氏を国軍に代わる「国家の守護者」にするためである。2015年の総選挙でもNLDは圧勝し、1962年から続いた軍政から半世紀ぶりに権力がやっと民政に移管した。直近の総選挙(2020年11月)でもNLDは圧勝したため国軍は窮地に立たされていた。そこで起こったのが2月のクーデターである。
民意を無視してクーデターと弾圧を繰り返す国軍を支える柱は武器、資金、そして「国家の守護者」としてのプライドである。国軍を制裁することで武器と資金の流れを減少させることができるが国際社会の足並みは揃わない。国軍のプライドが崩れる兆候は国軍内部が分裂することだが、残念だがその兆候はまだ見えない。