10月21日、世界各国のメディアが一斉に西アフリカのナイジェリアでの事件を報道した。発信地は前首都ラゴス、中心部につながる高速道の料金所付近で、治安部隊が群集に発砲し、死者が出たというものであった。都市圏としての人口規模が1,000万人を超えるラゴスでの騒乱は珍しいことではない。しかし今回、現地から伝わってきたのは政府に対して怒りの声を挙げる若者たちの姿であり、その手に掲げられたプラカードにはハッシュタグ付のメッセージが書きなぐられていた。なかでも目立ったのが「#EndSARS」である。
ナイジェリアの若者たちが要求していたのは、治安部隊を廃止することだった。警察組織に属する対強盗犯特殊部隊(SARS)が設置されたのは2010年、国内で頻発した騒乱、とりわけ武装した集団を鎮圧することが目的とされた。2009年に同国北西部で「ボコ・ハラム」と称される集団が多数の女子学生を拉致する事件が発生し、政府がその対策の一環として組織したと説明されてきた。にもかかわらず、SARSの活動はエスカレートして、治安維持を名目とした対応はハラスメントとも受けとめられていた。嫌疑をかけられたのは、社会の動きに敏感で、ときに血気にはやる若者たちである。SARSは厳しい批判を受けて2017年に一度、廃止が表明されたものの、なし崩しに存続してきた。
今回、若者たちのアクションに勢いを与えたのがSNSであった。とりわけTwitterでの情報
拡散はめざましく、呼応した若者たちがラゴスに集結したのはもちろん、国内各地でデモンストレーションが繰り広げられた。この動きは、リツイートによって国内外に拡散したばかりでなく、発信力の高いセリブリティたちをも巻き込んだ[y1] 。世代差や信仰の違いなど、これまで人びとを隔ててきた亀裂を乗り越えるチカラともなった。若者たちの怒りが共有されることで、大きなうねりが生じたと言えるだろう。
今回の事態の構図は、アメリカで警察官による暴力を契機に拡がったBLM(Black Lives Matter)の運動に似通っている。ナイジェリアの若者たちが掲げるメッセージにもBLMに共感したものが見て取れた。警察ひいては国家権力に対する疑念や不満が、運動の原動力であった。同様の大規模な抗議運動が、しばらく前には香港で、近くはタイで激化したことも想起されるだろう。また、SNSを介した運動の拡大は、エジプトから周辺国に波及した「アラブの春」にも遡り、主役はやはり若者たちであった。われわれが生きる社会、そこで共有される情報空間には若者たちの怒りが渦巻いている。