2020年8月14日に国交の樹立で合意したイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の両国は、9月1日にイスラエル側がUAEを訪問する形で関係正常化の詳細につき協議を開始した。UAEはエジプト(1979年)、ヨルダン(1994年)に次いでイスラエルを承認し国交を持つ三番目のアラブ国家となる。
振り返ってみれば、イスラエルが現在のパレスチナ占領地(ヨルダン川西岸地域およびガザ回廊)を第三次中東戦争(1967年)で実効支配下に置いた直後のアラブ首脳会議が決議したいわゆる「三つのノー」、すなわちイスラエルと「交渉せず、和平せず、承認せず」の時代から半世紀以上を経て、ここまで辿り着いたことになる。それでも、2002年のアラブ首脳会議で提起されたアラブ和平イニシアチブは、イスラエルの承認や国交樹立について西岸・ガザの全域をパレスチナ側に返還することが前提となっている。しかしイスラエル側は、明らかにこの前提条件を満たしていない。
それどころか今年5月に発足したイスラエルのネタニヤフ連立内閣は、1月に提示されたトランプ米大統領の中東和平提案(「世紀の取り引き」)に後押しされる格好で、7月1日以降西岸の部分的併合の手続きに着手すると宣言している。返還とは真逆の方針を打ち出しているのである。
しかしながら、コロナ禍第二波への対応を誤ったことで支持率を大きく低下させたネタニヤ
テルアビブ=アブダビ間に初就航したエル・アル航空直行第一便でUAEに降り立ったイスラエル代表団のベン・シャバット団長による挨拶。後方では国交を仲介したクシュナー米大統領顧問らが見守っている。
フ政権は、同様にコロナ禍への対応で批判を浴び、人種問題で国内の分断が進む米国のトランプ政権が西岸併合に関心を失ったこともあって、事実上併合に向けた動きを封じ込められることとなった。振り上げた拳を下ろせなくなったネタニヤフ首相にとって、このタイミングでのUAEとの国交正常化は、そのような政治的袋小路から脱する格好の口実となった。UAEの側もまた、イスラエルによる西岸併合の阻止を大義名分として国交樹立に踏み切ったと説明している。この併合停止についてはイスラエル側(一時凍結)とUAE側(併合断念)とで解釈が異なっているが、双方ともに併合問題は名目に過ぎないため、これが今後の両国関係の致命傷になる可能性は低いだろう。