2月14日に実施されたインドネシア大統領選の出口調査では、ジョコ・ウィドド現大統領の後継を主張した72歳の元陸軍中将プラボウォ・スビアント氏(国防相)が規定の過半数以上を制し、改革を主張する52歳のアニス・バスウェダン氏、現政権の政策の加速化を主張する55歳のガンジャル・プラノウォ氏を大きく引き離した。正式結果は3月になるが、プラボウォ氏の大統領就任(10月20日)は確実だろう。
1998年に30年以上続いたスハルト元中将の強権政権を打ち倒し民主化を実現したインドネシアだが、今回の選挙戦で明らかになったのは、国民の関心事項が民主主義ではなく、経済発展だったことだ。スハルト時代を知らない若者層(17-33歳)の6割以上、そして貧困層と中産階級の6割から支持を得たプラボウォ氏の成功の秘訣は、経済発展を優先し中産階級を育てた現職ジョコ大統領の後継になることだった。
さらに、ジョコ政権は、国軍と警察組織を利用して地方政府への影響力を拡大し(州・県知事、市長となった軍人、警察官も増加)、IT を利用し国家による国民の情報集約組織を作り上げた。国家による社会介入が国民に受け入れられた理由としては2002年から継続する厳しいテロ対策がある。
プラボウォ氏は、2014年と2019年の2回、ジョコ氏と大統領選を争い敗退している。今回は、ジョコ大統領の後継を謳い、さらにジョコ大統領の36歳の長男ギブラン氏を自らの副大統領候補に付け、勝利を確実にした。
スハルト時代に陸軍幹部だったプラボウォ氏は、スハルトの次女の娘婿として若くして中将まで駆け上がったが、スハルト失脚と共に国軍を解任され、ヨルダンに一時逃避するなど家族離散の目に遭った。帰国後、富豪の弟の支援で軍と警察のネットワークを活用し新政党を立ち上げ、今回、辛酸を舐めた人生の念願のリベンジとしての当選である。
世論を見るとプラボウォ新政権には民主主義を重視する理由がほとんど無い。よってまず腐心するのは、ジョコ現大統領の影響を切り崩す権力闘争だろう。それはフィリピンのマルコス政権が前任ドゥテルテ氏の影響力を削ぐ闘争と同じ構図だが、フィリピンのように公然の戦いではなく、人員配置など見え難いところから始まるはずだ。今回の選挙結果は経済優先の強権政治の始まりかもしれない。ただ72歳という年齢も懸念材料だ。5年の任期中に若手に権力を渡すのか、それとも権力にしがみつくのか。歴史から学ぶとすると、後者が優勢のようだ。