The World Commentary No.107

USAID解体と公衆衛生

USAIDの凍結と見直しが対外支援に携わる人々の間に激震を走らせた最中、「被援助国に自立する気がないのならば、支援の意味がないのではないか」という趣旨の日本語ポストがX上で多くの「いいね」を得た。

USAID(米国国際開発庁)とは、ケネディ大統領により設立された人道支援と開発援助を中心に展開する機関で、アメリカのソフトパワーの一角を構成してきた。アフリカやアジア、太平洋諸島、ウクライナなどに対し、2023年には350億ドル超を支出した。医療支援はその大きな部分を占めた。しかし、第二期トランプ政権で「無駄の削減」「透明化」「効率化」の呼びかけの下、2025年3月にUSAIDのプログラムのうち約83%が打ち切られ、残りは国務省に移管された。対外支援にあたる人々には衝撃が走った。

これはトランプ政権のアメリカ第一主義だけが原因ではない。その背景には、それまで対外援助を行ってきた先進諸国の世論が対外支援に消極的になってきたことがある。対外援助の予算は自国のために使われるべきではないかという内向きの指向が、アメリカに限らず支援する国々の多くで共有されている。さらに、欧米諸国が国際秩序を主導してきた時代から、新興国が存在感を増す時代への国際社会の「地殻変動」と、民主主義国と権威主義国、グローバルノースとサウスといった新たな分断線が意識されるようになり、人々が幅広い国々に支援することの説明を求めるようになったことも影響している。

USAIDは特にサハラ以南のアフリカを中心に、大きな医療支援を提供してきた。感染症に限ってもその内容は、HIV/エイズ対応、顧みられない熱帯病(NTDs)対策、さらに新興感染症の早期モニタリングと情報共有など、多岐にわたった。これらのプログラムのほとんどが2025年1月に凍結され、3月には大幅見直しとなった。その影響が現在じわじわと広がりつつある。

2026年5月にコンゴで発生したとされるエボラ出血熱は、USAID解体の影響をクローズアップした。複数の専門家は、援助削減がエボラ出血熱の検査・サーベイランス体制を弱体化させた可能性を指摘している。また病への対応も滞りがみられ、WHO(世界保健機関)テドロス事務局長は、緊急対応が後手に回っていることを警告した。

他にもマラリアやHIVなどへの対応が深刻な状況に陥っている。アフリカ諸国は2025年8月のアクラ保健主権サミットで、国内資源の動員や協働調達、地域での医薬品やワクチン生産への投資を確認した。ナイジェリアやエチオピアなどは、このサミットに先立ち自国財源の拡充や医薬品生産能力の強化を進めており、サミットで採択されたアクラ・コンパクトはその方向性に沿うものとなった。しかし多くの国々では、資金不足により医療サービス縮小を余儀なくされているのが現状である。 感染症対策とは、そもそも一国の自立では完結しない営みだ。アフリカ諸国が外部支援への構造的依存を問い直す必要に迫られているのは確かだが、一方で感染症拡散のリスクが高まっていることを座視すべきではない。ウイルスや細菌は、アフリカ諸国が自立しているかどうかを気にかけて動いてくれるわけではない。