The World Commentary No.37

911テロ事件から20年:怒りと恐怖の行方

20年前の2001年9月11日朝起こった連続テロ事件の影響は継続している。アルカイダに急襲され激怒したアメリカは、テロ対策は悪を打ち倒す戦争と唱え、世界最強の軍を動員して敵という敵を次々となぎ倒していった。テロリストという非国家に対する開戦は前代未聞であり、拷問の容認と超法規的拘束、国民の電話までも傍受するなど次々と前代未聞の措置が取られた。

アメリカの怒りは、次のテロを待つ恐怖と同時に存在した。怒りと恐怖につける薬は戦争の勝利のはずだったが、終わりのない戦争でイラク戦争は泥沼化し(アメリカ軍はまだ駐留中)、アフガニスタン戦争はタリバンの勝利に終わった。2つの戦争で発生した大量の民間人の犠牲者は「巻き添え被害(collateral damage)」と一蹴するアメリカに対し、イラクとアフガニスタン国民はもちろん世界中のイスラム教徒の怒りが噴出した。

アフガニスタンのように戦場となったイラクは世界中から集まった過激派の訓練場になり、戦闘経験を得た過激派は帰国したヨーロッパ、東南アジア、アフリカでテロ事件を起こした。戦場となったシリアで急成長した「イスラム国」は、イラク各地を次々に制圧し、世界中の過激派(アメリカ人もいた)が「イスラム国」に忠誠を誓い、さらにテロを実行した。

テロ事件の増加は、アルカイダ始め過激派を歓喜させた。「不信仰者」アメリカとその同盟国(悪)はイスラム戦士(善)との戦いの泥沼にはまり込み内部から自壊していく、と。

これに対しアメリカは、「正義と平等と自由はテロに勝利する」(2015年12月オバマ大統領)と反論し、終わりのない戦争は継続した。

20年経ってもアメリカ社会の怒りと恐怖は継続している。空港の安全管理強化からイスラム教徒への疑念と差別は日常となったが、その矛先は移民とエリート政治家に向けられた。異色人種移民はアメリカ社会を破壊すると恐れられ、エリート政治家はイラクとアフガニスタン戦争が順調であると言い続けた「嘘つき」となった。国民の公に対する信頼は転落した。経済格差の増大はこの信頼低下に追い討ちをかけた。 公私のバランスを誇りにしたアメリカ民主主義の基礎がぐらついている。テロ事件当日、アメリカ議会でGod Bless Americaを涙して歌った与野党議員達の協力はもう期待できない。超大国アメリカはどこへ向かうのか?