The World Commentary No.108

なぜアメリカはICCを解体したいのか

ICC(国際刑事裁判所)が、イスラエルのネタニヤフ首相に対して逮捕状を発付したことなどを受け、アメリカのルビオ国務長官は最近、「どのような手段を使ってもICCを解体する」と発言した。アメリカはそもそもICCの加盟国ではない。それにもかかわらず、なぜそこまでICCを批判するのか。その理由を理解するには、まずICCとは何かを知る必要がある。

ICCは、2002年に設立された世界で初めての常設国際刑事裁判所である。背景には、第二次世界大戦のホロコーストや、1990年代の旧ユーゴスラビア紛争、ルワンダ虐殺など、大量虐殺や戦争犯罪が繰り返されてきた歴史がある。ICCを設立したローマ規程は、ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪を「中核犯罪」と位置づけ、国際法に基づき個人を裁くことが最大の特徴である。その個人が国家元首であろうと、軍の司令官であろうと、中核犯罪については原則として免責されない。人類全体に影響するような重大犯罪について、国際社会の正義を優先しようという、新しい国際法の考え方を示した制度だと言える。

もちろん、ICCは各国の司法に代わる裁判所ではない。各国が自ら捜査・裁判を行うことが原則であり、それができない、あるいは行おうとしない場合にのみ介入する「最後の砦」として設計されている。近年では、フィリピンのドゥテルテ前大統領がICCの逮捕状に基づいて拘束されるなど、国家元首経験者に対しても実際に司法権を及ぼしている。その一方、その権限には限界もある。ICCには警察組織がなく、自ら容疑者を逮捕することはできない。逮捕や証拠収集、刑の執行は加盟国の協力に依存している。そのため、制度としては国際社会の理想を掲げながらも、その実現は依然として主権国家の協力に支えられている。

そして、ICCと主権国家の緊張を最も強く意識している国の一つがアメリカである。アメリカは世界各地で軍事作戦を展開しており、自国の軍人や政府高官がICCの捜査対象となる可能性を強く警戒する。そのためアメリカは、ローマ規程には加盟せず、ICCの権限拡大にも一貫して反対してきた。ルビオ国務長官の「ICCを解体する」という発言も、単にイスラエルを擁護するというだけではなく、「国家の主権より上位に立つ国際司法機関」を認めないというアメリカの基本姿勢を象徴するものである。

こうした中で、ニューヨーク市のマブダニ市長が、ネタニヤフ首相が9月の国連総会のためニューヨークを訪問した場合、逮捕できるかどうかを検討していると発言した。これは実際に市長が独自に逮捕できるという意味ではない。アメリカはICC加盟国ではなく、また、外交や外国要人への対応は連邦政府の権限である。市長が独断で外国首脳を拘束できるわけではなく、この発言は法的というよりも、「ICCを支持する」という政治的メッセージとして理解するのが適切だろう。

ICCをめぐるニュースは、「国家主権を守ること」と、「重大な国際犯罪に対して国際社会が責任を問うこと」という、現代国際法が抱える二つの価値のせめぎ合いがある。この視点からニュースを見ると、ルビオ国務長官やニューヨーク市長の発言は、国際法のあり方そのものをめぐる議論の一部であることがわかる。