The World Commentary No.21

スポーツと政治

USオープン女子決勝の大坂なおみの勝利は世界を沸かせた。さらに、大坂が決勝までの7回の試合でその都度別々の名前が書かれた黒いマスクをして入場する姿も世界に広く報道された。白字で書かれた7人の名前はアメリカで理不尽に射殺された黒人の氏名であった。2年前にUSオープンの勝者になった時のシャイな大坂とは対照的に、今回は継続する黒人差別に強く抗議しつつ自ら黒人女性というアイデンティティーに対する誇りを前面に出した強靭なアスリートの登場だった。

背景はアメリカで頻発する黒人射殺事件とその報道である。去る6月にジョージ・フロイド氏がミネソタ州で白人警察官により首根っこを7分46秒押さえ付けられ窒息死した事件は、その残虐な一部始終が携帯電話のビデオで録画され報道されたため、日本を含む世界中で人種差別や弱者の弾圧に抗議する運動へと発展した。この報道をみた大坂は「私の心が痛み、行動をするべきだと感じた」(米Esquire誌2020年7月1日)ため後日ミネアポリス市で開催された抗議デモに参加している。その後も継続した黒人射殺事件の数々を受けて、大坂はこのUSオープンという世界的スポーツの舞台を利用し、マスク着用を通じ静かで強烈な政治的抗議をしたのである。

USオープンとは対照的に、オリンピックではスポーツの場に政治を持ち込むことは厳しく禁じられている。直近では今年1月に、国際オ

リンピック委員会は、東京オリンピック・パラリンピックでのアスリートによる抗議活動を禁止するガイドラインを発表した。「政治的、宗教的、人種的なプロパガンダや広報」を禁止するオリンピック憲章規則50の2をもとに書かれたガイドラインである。このガイドラインによると、オリンピックは「世界の団結と調和」のための運動であるため、スポーツは「中立であり、政治や宗教やいかなる介入からも分離されなければならない」、という。実際、アメリカ黒人女性のハンマー投げ金メダリスト(Gwen Berry)は去年8月にオリンピック予選の南米大会で優勝した際に拳を空に掲げ人種差別に抗議したことが理由で東京オリンピック出場停止の処分を国際オリンピック委員会から受けている。政治とスポーツは厳密に切り離されるべきだろうか。

これに関し、大坂は自らのツイッター(9月16日付)で皮肉っぽく次のように語っている。「政治をスポーツに持ち込むなと言う人達が、私に勝て、と激励したんだ。」