国連の専門機関の世界保健機関(WHO)は今年1月20日に新型コロナウイルスについて最初の日報を発出した。そこには、2019年12月31日に中国政府から44名の未知のウイルスによる肺炎患者が武漢で発生し、1月12日には中国政府が同ウイルスの遺伝子配列を世界に公開したと記されている。中国政府は1月23日に武漢を封鎖、1月30日にWHOは感染の世界的危機が発生したと発表。この時の全世界の感染者は1万人弱、死者は200人程だった。3ヶ月後の世界の感染者は400万人を超え、死者は27万人で、増加中である。
世界的大感染を招いたのはWHOの対応が遅かったからだろうか。2014年に発生したエボラ出血熱感染発生後の対応が遅かったとしてWHOは厳しく批判された。WHOがエボラ感染の世界的危機が発生したと発表したのは感染確認の5ヶ月後だった。当時ニューヨークの国連開発計画本部にいた筆者は、WHOのエボラ対応への遅さを国連内部から見ていた。遅い対応の主な理由は3つあった:(1)WHO予算の8割は拠出国が支出目的を定めた予算で緊急事態用に活用できないこと、(2)WHO事務局長は多額出資の拠出国に対し弱い立場にいること、(3)WHO事務局長は世界に6つあるWHO地域事務局が各地域の主要国の影響下にあるため地域事務局を主要国の合意なしには動かせないこと。
要はWHOも、国連職員が自虐的に揶揄する「国連病(給与を出してくれる拠出国には強く物を言えない)」で喘いでいたのである。
このWHOの構造的問題は今でも変わらない。ただし、今回WHOは感染確認後1ヶ月で世界的危機の発生を宣言し、エボラ感染時と比べれば早い対応だった。しかし、トランプ米国大統領は、WHOを中国寄りだと批判し、米国の拠出金の見直しをするとテドロス事務局長に圧力をかける。その中国はWHOによる現地調査を1月30日まで拒否しデータの公表でも不透明だ。WHOは中国からの圧力に屈し台湾によるコロナ対策の知見を無視し続けている。
WHOは科学的根拠をもとに感染症と闘ってきた。例えば1980年の天然痘撲滅宣言まで11年間各国政府に働きかけワクチン接種の推進役を果たした。また、ポリオの撲滅まではあと一歩である。
WHOが機動的で政治的に中立な組織であるために世界各国はWHOの強化のため紐付きでない予算を充分につけるべきだ。科学的知見を政治判断で振り回すのは危険極まりない。