去る6月12日、シンガポールで史上初めての米朝首脳会談が実現した。米国のトランプ大統領にとっては、北朝鮮から「非核化」に向けての言質を取ったということが、また北朝鮮の金正恩委員長の側からは、体制の保証を取り付けたということが、それぞれ「成果」として喧伝されている。具体的なロードマップ等が示されないまま、当事者だけがただ「取った」「取った」と騒いでいるのみなので、この会談の実質がどこにあったのか、現時点で評価することは難しい。
それでも、北東アジアの政治力学を主題としたはずの米朝首脳会談が、実はその裏に西アジアや中東の情勢変化を見据えたものであることを指摘するのは容易であろう。何かというと「アメリカ・ファースト」を呼号しているかに見えるトランプ大統領の頭にある最優先事項は、次の選挙で自分が再選されること、すなわち「トランプ・ファースト」でしかない。彼の支持基盤の中核は、いわゆる白人エヴァンジェリカル(キリスト教福音派)であり、この票田を繋ぎとめておけば、相当の確率で再選が可能となる。そして白人エヴァンジェリカルの多くはキリスト教シオニストと看做され、ユダヤ人国家イスラエルの熱狂的な支持者たちである。そのイスラエルが年来、自国の安全保障に対する最大の実存的脅威として敵視しているのがイランにほかならない。
家族ぐるみでイスラエル現政権と親密な関係にあるトランプ大統領にとっては、イスラエルと組んでイ
ランを敵視する政策は公私両面から必然であって、米大使館のエルサレム移転もイラン核合意(JCPOA)からの離脱もこの文脈で理解される必要がある。米朝首脳会談は、要するにイランと北朝鮮という二正面作戦を忌避して脅威を一つに絞るための米国の方便に過ぎない。
他方、金委員長の側でも、米国が約束する「体制保証」が何を意味するかは中東の前例で明らかなはずであろう。1990年代に核開発を進めていたイラクの政権は2003年に打倒され、サダム・フセインは処刑された。その同じ年に核開発の放棄を闡明したリビアの政権もまた、2011年に打倒され、カダフィ元首は殺害された。もし彼らが、西側の口約束を信じずに、核開発を進め、核兵器を保有していたら?それが自らの体制を保証する最も確実な方法だと判断していても全くおかしくはあるまい。
いずれが狐でどちらが狸か。ともあれ、化かしあいは続くのである。