トランプ関税(世界各国に一律10%の最低税率+約60カ国と地域に上乗せ税率)は4月9日に発動された。翌10日に上乗せ関税分だけは、報復措置をとっていない国に対し90日間停止ということになった。停止の理由はアメリカ国債の金利急騰が背景と報道されている。対日トランプ関税は上乗せ分14%が当面免除され10%となったが、鉄鋼・アルミ製品、自動車関税は残ったままだ。中国は報復したため、関税が上乗せされ、145%の一律関税を課されることになった。これに対し中国は再報復で125%をアメリカに課すことに決め、貿易戦争が深刻化した。
トランプ大統領は、自国の慢性的経常収支の赤字を見て、アメリカが日本含む他国から「レイプされている」と主張し、関税を使ってアメリカ国内の製造業を「復活」させると主張。ただ、アメリカ経済には構造的な特徴がある。アメリカでは生産より消費が好調で(景気が良い兆候)、経常収支(国の対外的な経済取引の指標)が慢性的赤字である。アメリカ人は購買意欲が高く、クレジットを使い手頃な価格の外国製品を買って大きな家を一杯にする消費主義の国だ(中国からの輸入額は総輸入額の約2割)。一方、世界の工場中国は、手頃な価格の製品を大量に輸出する経常収支黒字の大国だ(対米輸出額は全体の2割弱)。
では、アメリカの消費者が海外に支払ったドルはどこへ行くのか?経常収支が黒字の各国はアメリカ国債を買い、アメリカに投資し、アメリカ政府予算を支えるという持ちつ持たれつのカネの流れがある(日・中が米国債全体の約1/4を所有)。世界の基軸通貨としてのドルが安定し信頼されることがアメリカの利益だが、この関税ドラマでドルへの信頼が揺らいでいる。
トランプ大統領は消費大国アメリカに製造業を復活させる夢を見ている。そのために鉄鋼・アルミ製品、自動車関税は継続している。しかし、アメリカに製造業を復活させるのは容易ではない。昨年の売上高上位の米国企業は1位ウォルマート(小売)、2位アマゾン(小売)、3位アップル(コンピュータ)であるが、3位アップル製品の多くは中国製だ。若きトランプ氏が不動産会社社長となった1971年には1位ジェネラル・モータース(自動車)、2位エクソン(石油)、3位フォード(自動車)だったことを見ると、アメリカの産業構造は大きく変化した事がわかる。
製造業はロボット化が進む産業でアメリカ人労働者の雇用の拡大は期待できない。さらにアメリカが得意な金融・情報・サービス産業の更なる発明から政府が手を引き始めている。経済学者のマッツカートが説明する通り、iPhoneに必要なチップ、メモリー、ディスプレイ、タッチスクリーン、リチウム電池、アルゴリズム、インターネット、GPSは米国政府の支援で軍と大学の研究所が発明した技術だ。アメリカの底力は強力な産官学ネットワークと自由市場だ。しかし、トランプ政権は「政府効率化」の名の下、政府の研究所や大学への補助金を停止・削減し始めた。
泥沼化する貿易戦争という「雨」で「地固まる」のはいつだろうか?アメリカが自らを弱体化しているのではないかと心配しつつ、「いじめっ子」アメリカ抜きの世界秩序を模索する動きが加速化している。