The World Commentary No.11

香港大規模デモと「真の普通選挙」実現の願い

人口約730万人余の小さな香港で表明された力強い民意が広く世界の耳目を集めている。

2019年6月、刑事事件の容疑者を中国本土に移送することを可能とする「逃亡犯条例」改正案に反対する香港市民による大規模なデモが発生した。主催した民主派団体の発表で、9日の抗議デモは100万人超、16日の抗議デモは200万人近くとされている。これらは1997年に香港が英国から中国に返還されて以降、最大規模のデモとなった。デモ参加者数はこの改正案が民主派だけでなく、経済界や親中派にも賛同されていない現実を示した。7月1日(香港返還記念日)には、改正案撤回を求めるデモ隊が立法会(議会)の庁舎を破壊し一時占拠する衝撃的な事件も発生し、混乱が続いている。

 香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、事態の鎮静化を図るため、改正案について「無期限延期」「完全停止」「死んだ」と段階的に表現を改めていったが、「撤回」を明言していない。一方、香港政府の後ろ盾である中国政府は、共産党機関紙『人民日報』(7月3日付)一面で論評を掲載し、立法会が一時占拠された事件に対して、香港の社会秩序を破壊し、「一国二制度」(一つの国の中で社会主義と資本主義の二つの制度を共存させる統治方式、返還後50年間にわたり「高度な自治」を保証)に挑戦する行為と強烈に批判した。

 では、香港トップの行政長官が大規模デモを受けて、条例の改正案を実質「廃案」としたにもかかわらず、学生や市民によるデモが一向に収束しない現状をどう理解したらよいのだろうか。一つのヒントは、過激化した若者が立法会を占拠した際、壁にスプレーで書き残した「香港 真普選」という言葉にあると思われる。直訳すると、「香港 真の普通選挙」となる。筆者は、表立って議論されてきた「逃亡犯条例」改正案よりも、今回の一連の抗議運動の中心となる香港マジョリティの願いをここにみている。

ただし、香港で普通選挙が実現する可能性は限りなく厳しく、民主化の見通しは暗い。香港が体制転覆の拠点となることを恐れる中国政府の対応方針は揺らぐことはない。2014年の「雨傘運動」も、中国側の行政長官選挙案が民主派の立候補を阻む仕組みで、「真の普通選挙」でないことへの抵抗であったが、抑え込まれた。最後に、香港返還を実現し、習近平に比べて威信も影響力も実績もはるかに凌駕する政治家であった鄧小平が1980年代に語った言葉を記しておきたい。「来世紀の半ば以後には大陸でも普通選挙を行うことができる」。返還から22年、28年後の香港はどうなっているだろうか。