The World Commentary No.28

RCEP:試される日本の通商外交

8年におよぶ交渉の末、地域的包括的経済連携協定(RCEP:アールセップ)が2020年11月に署名された。RCEPは、アジア太平洋経済協力会議(APEC)が目指すアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP:エフタープ)実現のための手段の1つである。2010年11月に日本が議長国を務めたAPEC首脳会議で採択された「横浜ビジョン」では、FTAAPに向けた道筋として環太平洋経済連携協定(TPP)、ASEAN+3、ASEAN+6の3つの経済的取組みを基礎として進めるべしとされた。ASEANの提案により、後者2つを統合した枠組みがRCEPである。今般インドは国内産業への影響を懸念して署名を見送ったが、ASEAN 10カ国と日中韓、オーストラリア、ニュージーランドを加えた15カ国によって構成される拡大東アジア自由貿易圏が誕生した。

 「世界の人口、GDP、貿易額の約30%を占める世界最大規模の自由貿易圏」「日中韓を結ぶ初めてのFTA」など、マスメディアではその重要性が伝えられるが、RCEPはTPPと比べて注目度は低い。その理由は、TPPはRCEPより自由化率やルールの水準が高いほか、米国と共に日本が次世代の貿易ルール作りを主導し、台頭する中国を牽制する役割を期待されたからである。実際、トランプ前米大統領が離脱を表明するまで、TPPは中国不在のなか米国主導で交渉は進んだ。他方、米国不在のRCEPはASEAN主導であるものの、日本を含むほとんどの国にとって最大貿易相手である中国の影響力は強い。

中国の存在感が強いからこそ、日本はRCEPへの関与を戦略的に深めていかねばならない。それは、種々の地域協力枠組みの中心となるASEANの全加盟国がメンバーだからだ。ASEAN諸国はASEANが中核(ハブ)となるRCEPを重視する一方、大国主導のTPPについてはASEANの中心性を弱める恐れがあると危惧する。また、中国は極めて重要な経済パートナーだが、シンガポールの東南アジア研究所の調査によれば、域内における中国の経済的影響力が増大するにつれ、同国への懸念は強まる傾向にある。一方、多国間FTAの牽引者としてASEAN諸国が最も期待を寄せている国は、米中のいずれでもなく、日本であった。

2021年、日本はTPP議長国を務める。米国にTPP復帰を働きかけるなど、日本の外交手腕が試される。だがTPPに傾注するあまり、RCEP外交が疎かにされてはならない。後者のルール水準が高くないとはいえ、今回、電子商取引の分野等で新たな規定が設けられた。RCEPとTPPの双方で、ルール作りを推し進めていく役割を日本政府に期待したい。